膝OAの変形と痛みの関係

 我々はどうしても明らかな変形を見ると、そこに力学的ストレスが加わり痛みが生じていると考えてしまう。しかし著しいO脚でも全く痛みを訴えない患者さんもいらっしゃる。いったいこれはどうしてなんだろう?と長年悩んでいた。

 膝OAの内反変形の程度と痛みが相関するのか知るために、pub medで検索したがFTAとpainでは疫学的なデータは見つからなかった。代わりに変形の程度にKellgren-Lawrence ratingを用いたものが見つかったので紹介する。

膝の痛みとX線上の変形は自己評価のDisabilityレベルを予測する
Knee Pain and Radiographic Osteoarthritis Interact in the Prediction of Levels of Self-Reported Disability.
D.A.Williams, et al: Arthritis & Rheumatism 51:558-561, 2004

 対象はワシントンにて関節症のスクリーニング研究という名目で、新聞広告で募集したボランティアを3群に分けた。変形のみで痛みのない群、変形が無く痛みのある群、変形と痛みの両方ある群の比較である。

・痛みのみの患者群のWOMACに関係する因子はBMI、抑うつ傾向、痛覚閾値の低さ
・痛みと変形がある患者群のWOMACに関係する因子は抑うつ傾向、骨棘の多さ
・変形の程度(Kellgren-Lawrence rating)とWOMACはあまり関係がない



 次に紹介する文献は膝の痛みと内反モーメントの関係である。

X線上軽度のOA患者における痛みと内反モーメントの関係
Relationship Between Pain and Medial Knee Joint Loading in Mild Radiographic Knee Osteoarthritis.
L.E. Thorp, et al: Arthritis & Rheumatism 57:1254-1260,2007

 症状のある患者は大きな臨床研究のために集められた人々、無症状の患者はthe Section of Rheumatology at Rush University Medical Centerによってパンフレットと口コミで集められた人々が対象である。無症状の患者は更にKellgren-Lawrence(以下K/L)グレード2の群とK/Lグレード0-1群に分けた。

・ 3次元動作解析装置と床反力計で測定し、内反モーメントの大きさと加速度を算出。
・ 症状のあるK/L grade2の群、症状のないK/L grade2の群、症状のないK/L grade0~1の群の比較
・ 無症状群の間では変形の程度と内反モーメントに違いは無かった
・ 有症状群では内反モーメントとその加速度が無症状群より大きかった

 この研究データからも無症状の群にも変形が中等度まで進んだ人がいることがわかる。また内反モーメントが大きいから痛みがあると述べているが、痛みから避けるために内反モーメントを作っているとも考えられる。ニワトリと卵の関係である。



 次は外側ウェッジの効果に関する論文の紹介である。一番インパクトのあった論文は外側ウェッジの大規模RCTである。

 

内側膝OAへの外側足挿板の効果
Lateral wedge insoles for medial knee osteoarthritis, 12 month randomised controlled trial.
K.L. Bennel, et al, BMJ, 2011

 対象はオーストラリアのメルボルンでパンフレットやラジオを使って50歳以上の膝痛のある方を募集。電話で歩行時痛がNRSで3以上の人に限定し、X線画像で変形の程度を確認し、K/Lgrade2・3の人たちのみを対象とした。インソールは0°と5°の比較で、外観上は違いが分からないようにしてあり、ダブルブラインドで研究を実施。1年間の治療効果を検証した。結果は有意差なし(WOMAC、痛み、軟骨量、QOLとも)だった。


 もう一つ外側ウェッジのCrossover RCTを紹介する。

膝OAに対する足挿板のクロスオーバーRCT
A Randomized Crossover Trial of a Wedged Insole for Treatment of Knee Osteoarthritis.
K. Baker, et al: Arthritis & Rheumatism 56: 1198-1203, 2007

・ 対象は50歳以上で内側の関節裂隙の狭小化があり、WOMACの痛みのスケールで中等度の者90名
・ 対象者を二群に分け、0°と5°のブラインド化したインソールを使用
・ 6週間使用後、4週間インターバルを挟み、インソールを入れ替えて6週間使用
・ 効果は13.8/500ポイントの減少で優位な改善とは言えない


 Pub medで2000年以降の外側ウェッジの効果に関するRCTを調べると1つを除き、全て結果は無効であった。唯一有効という結果の論文は日本人の出したもので、そこで紹介されているインソールを当院でも何名かに試してみたが、論文ほどの効果はなかった。論文の研究手順はしっかりしたもので、非の打ちどころはなかったが結果は信用できなかった。

 膝の痛みを軽減するために足挿板を自作し、装着直後に効果を確認した人は多いと思うが、数か月してからその効果が持続しているかを確認した人はどれだけいるだろうか。直後効果=長期効果という錯覚をしていないだろうか?


 最後に日本の論文からの抜粋である。

変形性膝関節の疼痛発生のメカニズム
 齋藤知行 他,関節外科 21:151-158,2002

 腰野らの報告でも中等度の痛みのOA患者では関節の狭小化は無い者が多いことが分かる。


 更に興味深いのが吉田らの報告である。内反変形の膝関節は内反より外反する方が痛みを生じることが多いという結果である。外反すると痛いから内反位を取ろうとし、その結果、内反変形が進んでいくと考えるのが普通ではないだろうか。普通、人は痛みがあれば痛くない動作パターンを無意識に選択する。



「まとめ」
・ 変形の程度と痛みは直接関係しない
・ 膝OAの内反変形は外反による痛みを避けるためと考えられる
・ 内反ストレスを減らすための外側ウェッジの長期効果はない

筋スパズムを取れば変形・アライメントはそのままでも痛みはかなり軽減する。


この論考をまとめた後に膝OAに対する足挿板のシステマティックレビューが発表されたので紹介する。

内側膝OA患者の痛みに対する保存療法における外側足挿板
Lateral Wedge Insoles as a Conservative Treatment for Pain in Patients With Medial Knee Osteoarthritis; A Meta-analysis
Matthew J. Parkes, et al,  JAMA. 2013;310(7):722-730

・足挿板は非介入の対照群に比べれば有効だが、ニュートラル足挿板より有効ではなかった
・論文の考察にはないが、介入期間が短い場合は有効(短期効果はあるが、長期効果はない)

 

 足挿板の作用は足部を介して膝に外反・外旋作用を及ぼす。その機械的刺激が膝の疼痛抑制に働いていると考えている(ストレスの軽減ではない)。そして日がたつにつれ、機械的刺激に慣れが生じると疼痛抑制が働かなくなり、痛みが徐々に再発してくると考えられる。これが足挿板の短期的効果のメカニズムだと考えている。