今までの病態モデルと臨床的事実

病態モデル

 運動器系疾患の病態モデルは整形外科学が基本となり作り上げられてきた。それは組織損傷と炎症が主体となった「構造異常モデル」であり、臨床で多くを占める慢性有痛性疾患には当てはまらないことが多い。たとえば安静や抗炎症薬の投与ではあまり改善が見られないということが代表的である。それにはX線写真などの画像所見を重視し、客観化が困難な機能障害である筋スパズムを見落としてきたことが一つの原因だと思われる。
 そこで注目されるのが理学療法、特に徒手療法の領域で広まっていった「機能障害モデル」である。アライメント異常、筋力低下、joint playなどの身体機能に詳細な評価を行い、そこに痛みの原因を求めていく方法である。
 しかしアライメント異常と痛みは相関しないことは腰痛や変形性膝関節症で報告されている。また痛み、joint playや筋スパズムは徒手療法により改善するが、その手技は関節、筋・筋膜、神経、皮膚など治療対象がバラバラである。いったい病態は何で、それはどの組織に存在するのか見解が一致しない。

(痛みと治療の論考集リンク)運動器疾患の痛みの本体
治療錯覚       

前提となる臨床的事実

脊柱・骨盤のアライメントは痛みのない人も含め、ほとんどの人が歪んでいる

・ 脊柱は前額面でS字状(胸椎右凸、腰椎左凸)でC7棘突起は右変位(左回旋)、骨盤は右が前方回旋、左が後方回旋していることが多い

それ以外の脊柱彎曲の異常や変形性膝関節症のO脚は、痛みを避けるための姿勢や筋スパズムにより生じている
(つまり変形やアライメント異常は痛みの原因ではなく結果である)

・ O脚変形やそれに伴うラテラルスラストが膝の痛みを引き起こすと言われているが、人間はわざわざ痛みを生じる運動パターンは取らない
・ 人間の運動パターンの選択における原則
  ①痛くない
  ②エネルギー効率が良い
  ③運動制御が楽
・ O脚変形の膝関節は内反よりも外反する方が痛みを生じる人が多い

痛み、筋スパズム、ROM制限、アライメント異常は相互に関連しあっている

・ 各種の徒手療法や運動療法がそれぞれの機能障害を対象として治療するが、どの方法でも一つを変えれば他も改善する

(痛みと治療の論考集リンク)     
変形・アライメント異常と痛みの関係