出発点

 臨床における不思議なことはいろいろあるが、その中で一番気になっていたのが変形性膝関節症だった。O脚がひどくても全く膝に痛みを訴えない患者さんと、下肢のアライメントは正常なのに強い痛みを訴える患者さんがいらっしゃることだった。当時の知識では


 膝関節の内反変形⇒内側の圧迫ストレス⇒軟骨の破壊→痛み

という関係だった。しかし少し調べてみて軟骨には痛覚受容器がないことがわかると、ますます分からなくなってきた。更に調べていくと


 軟骨破壊⇒滑膜炎⇒痛み

がそのメカニズムだと分かった。一応の納得ができたが、その後患者さんを診ていくと納得できない事実がわかってきた。

変形性膝関節症の患者さんの膝の所見
・熱感がある人がほとんどいない
・腫脹と痛みだけの人が多い
・熱感・腫脹とも無く痛みだけの人もいる


つまり炎症が起きていないことの方が多いということだった。

整形外科の教科書では滑膜炎が痛みの原因と記載してあるが、関節液の鑑別診断の一覧表では変形性膝関節症は「非炎症性」に分類されている。これは明らかに矛盾である。
(鳥巣岳彦,国分正一 総編集:標準整形外科学 第9版,医学書院,2005)