足関節捻挫の治療と予防の可能性

 ありふれた疾患で治療方法も確立していると思われているものでも、実はまだわかっていないことがあり、そこに改善の余地があるように感じている。

 今回は足関節捻挫の治療と予防に関して調べてみた。

姿勢制御と足関節内反捻挫のシステマティックレビュー
 PartⅠ:装置による検査で障害が検出できるのか?
Systematic Review of Postural Control and Lateral Ankle Instability, Part I: Can Deficits Be Detected With Instrumented Testing?
Patrick O. McKeon, Jay Hertel: Journal of Athletic Training, 2008;43(3):293–304


姿勢制御の障害は足関節内反捻挫のリスクを高めるか?
⇒重心動揺の速度が速い方が捻挫のリスクが高い傾向にある

急性足関節内反捻挫により姿勢制御は障害されるのか?
⇒受傷群の捻挫側・非捻挫側とも対照群より動的姿勢制御は低下
⇒受傷群の捻挫側と非捻挫側の比較では捻挫側の方が静的姿勢制御は低下している傾向だが、統計的には同様に低下している

慢性足関節不安定症により姿勢制御は障害されるのか?
⇒不安定症群が対照群より静的姿勢制御は低下傾向
⇒不安定症の捻挫側と非捻挫側の比較では同様に静的姿勢制御は低下している

 

姿勢制御と足関節内反捻挫のシステマティックレビュー
 PartⅡ:バランストレーニングは臨床的に有効なのか?
Systematic Review of Postural Control and Lateral Ankle Instability, Part II: Is Balance Training Clinically Effective?
Patrick O. McKeon, Jay Hertel: Journal of Athletic Training, 2008;43(3):305–315


予防的バランストレーニングは足関節内反捻挫のリスクを減らせるのか?
⇒1年間より2年間のトレーニング、既往歴のない者よりある者のリスクが減らせる

バランスや協調性トレーニングは急性足関節捻挫の治療成績を改善するのか?
⇒バランストレーニングは再発のリスクを減らす
⇒足圧中心の移動距離などは軽減傾向にあるが、どちらとも言えない
⇒捻挫側のバランス障害は残存している

バランスや協調性トレーニングは慢性足関節不安定症の治療成績を改善するのか?
⇒トレーニングの有無による比較ではバランスは改善傾向にあるが、どちらとも言えない
⇒トレーニングの前後比較ではバランスは改善するとは言えない

 

システマティックレビュー:姿勢制御と足関節内反捻挫のまとめ

[評価]
• 重心動揺計で静的姿勢制御、 Star Excursion Balance Testで動的姿勢制御の異常が評価できる
• 重心動揺が速い方が捻挫のリスクが高い傾向
• 捻挫により急性期も慢性期も姿勢制御は低下しており、しかも両足に低下があり、捻挫側がより低下している傾向である
[治療]
• 再発リスクは減っている
• バランスは改善傾向
• 受傷側のバランス障害は残っている

 急性足関節捻挫の姿勢制御は受傷側だけでなく健側でも障害されているということは、足関節の異常で姿勢制御が障害されたというより、もともと姿勢制御に障害がある人が捻挫をしていると捉えるべきではないだろうか。
 また受傷側のバランス障害が残っている(特に慢性では)ということは、改善の余地があると考えるべきではないだろうか。



次に参考にしたのは下記である。

福林徹,蒲田和芳 監修:足関節捻挫 予防プログラムの科学的基礎,NAP,2009


足関節不安定性という問題は構造的な要素では40~50%しか説明できなく、それ以外は機能的な異常によるものではないかと考えられている。

機能的不安定性の研究論文のレビュー結果を紹介する。

• 関節位置覚の低下
 ・ 機能的不安定群の足関節位置覚の再現誤差が健常者より3°程度大きかった(Boyleら, 1998)
 ・ 足関節中間位から他動的内反運動を行い、対象者が運動開始を感じた角度の比較では不安定足4.2±3.1°安定足3.2±1.8°(Lentellら,1995)
• 腓骨筋反応時間
 ・ 遅延あり 4件、なし3件
• 筋力低下
 ・ 求心性外反筋力低下 あり4件、なし4件
 ・ 遠心性外反筋力低下 あり2件、なし3件
• 姿勢制御
 ・ バランス低下 あり5件、なし1件

再発予防の中心になっているのは不安定板・バランスボードであるが、その効果のレビューを紹介する。
• 固有感覚訓練(バランスボード)
 ・ 再発予防の効果あり(効果なしの報告もある)
 ・ 腓骨筋反応時間は不変
 ・ 疼痛・腫脹は不変
 ・ バランス能力は改善

このまとめを見るとバランスボードのトレーニングは、足関節以外の部位による代償が働くようになったと考えるべきではないだろうか。

 

次に腓骨筋反応時間の基礎研究論文を紹介する。

足関節内反捻挫;動的防御機構の役割
Ankle inversion injuries. The role of the dynamic defense mechanism.
Konradsen L.: Am J Sports Med. 1997, 25(1):54-8.


 図のように不意に足関節の内反が生じる装置を作り、内反時の運動のタイミングと筋活動を記録した研究である。
【結果】
• トラップドアが開いて足関節が30°内反するのに80msec
• 外反が起き始めるまで176msec
つまり「腓骨筋反応では捻挫を防止できない」ということである。

考察での要点は以下である。
• 内反捻挫の防止は中枢での予測制御
• 視覚や平衡感覚の情報が手掛かりになり筋活動が予め生じる
• 遊脚相後期の足部が地面の5㎜上を通過するが、そのタイミングは踵接地の220msec前である。この期間が筋の防御活動に猶予を与えているかもしれない。

 

テーピングとブレースの効果

上松大輔 他:陳旧性足関節外側靭帯損傷に対するテーピングならびに装具療法,臨床スポーツ医学 30:659-665,2013


• 足関節捻挫既往歴のある選手の予防効果
 ・ テーピング71%減少、ブレース69%減少
• 受傷メカニズムは接地時に内旋・内反(底屈が必須ではない)
• 予防メカニズム
 ・ 可動域制限:テーピングとブレースとも同様に制限するが、テーピングは20分の運動で効果がなくなる
• 固有受容感覚の改善
 ・ 固有受容感覚全体には優位な影響はない
 ・ 関節位置覚は改善
 ・ 運動覚は低下
• その他の効果
 ・ 捻挫既往のある者は、ない者より内反位で接地するので、その接地前の角度を修正する

 テーピングが20分で固定効果がなくなるけれどもブレースと同等の効果があることから、筆者は位置覚の改善と接地前の角度を修正することがテーピングやブレースのメカニズムではないかと述べている。


足関節捻挫の再発予防プログラム

茂木奈津子 他:足関節捻挫予防および再発予防プログラム,臨床スポーツ医学 30:667-676,2013


過去に報告されたRCTのみを要約してある。
• 7論文あり
• Ekstrandの研究以外はバランストレーニングを実施、3論文はバランストレーニングのみ、3論文はバランストレーニングとその他の複合トレーニング
• 複合トレーニングではウォーミングアップ、ジャンプトレーニング、スキルトレーニング等
• 効果に関して5論文は有効、2論文は無効

 以上のようにバランストレーニングを中心とした再発予防プログラムはおおむね有効なようである。しかしバランストレーニングで一番期待していた腓骨筋反応時間は改善しない。更に腓骨筋反射では内反捻挫を止めることはできない。あくまで推測であるが、全身的な平衡機能の改善が予測制御にプラスに働いているのかもしれない。

 

機能的不安定性の改善の可能性について

 バランストレーニングにより腓骨筋反応時間は変わらず、姿勢制御が改善することは分かった。その他の機能的不安定性の原因として考えられている関節位置覚の問題はどうであろうか。
 位置覚のトレーニングは認知運動療法以外ではあまり一般的ではない。ただ不安定性のある患者では、わずか1,2度のずれなので、それが再学習できるか分からない。そして位置覚のずれの原因が明らかになっていない。靭帯の損傷と共に固有受容器が損傷しているためといくつかの論文に書かれているが、受容器も靭帯の修復と共に再生するはずである。また例え靭帯が切れたままでも皮膚や筋の固有受容器の働きで位置覚が修正されてくるのは、人工関節の術後の位置覚の研究からも推測できる。それにもかかわらず位置覚の異常があるのは筋スパズムによるものかもしれない。

 捻挫の慢性期で痛くは無いけれども足の不安感がある、違和感があるという訴えの患者さんに時々遭遇する。そんな場合、多くは腓骨筋のスパズムが残っている場合がある。その治療をすれば主訴の改善が得られることが多い。これが捻挫の予防につながるかは分からないが、バランストレーニングの前に評価と治療をすべきだと考えている。