RICE処置は本当に有効か?

 以前からずっと気になっていたのが、急性期の炎症にアイシングは本当に有効なのかということである。炎症の症状である熱感、腫脹、疼痛は損傷組織の治癒過程における正常な反応であり、それをアイシングで減らすことは逆に治癒過程を長引かせてしまうのではないかと考えていたからである。

pub medで検索し該当論文をシステマティックレビュー中心に紹介する。

急性軟部組織損傷への寒冷療法の適応

The Use of Ice in the Treatment of Acute Soft-Tissue Injury
A Systematic Review of Randomized Controlled Trials
Chris Bleakley, et al, The American Journal of Sports Medicine, Vol. 32, No. 1, 2004


【寒冷vs温熱vs交代浴】
 • 足関節捻挫後に寒冷療法+運動療法、温熱療法+運動療法、交代浴+運動療法の3群の比較では寒冷療法群が3日目と5日目の浮腫の軽減が有意に改善した。
【寒冷vs寒冷+低周波】
 • 急性の足関節捻挫後に寒冷療法のみと寒冷療法+高電圧低周波を行った比較では浮腫、疼痛、ROMに有意な差は無かった。
【寒冷vs寒冷なし】
 • 関節鏡を使った膝の微小手術後に間歇性寒冷療法+運動療法と運動療法のみを行った比較では寒冷療法群が疼痛の軽減が有意にみられた。また鎮痛薬の使用量も少なく、荷重状況も良かった。しかし術後1週目の膝の周径やROMに有意な差は無かった。
【寒冷(持続法)vs寒冷(間歇法)】
 • 手根管解放術後に3日間、持続的寒冷療法と20分間の間歇的寒冷療法を実施した。持続的寒冷療法群が疼痛、手関節周径で優位に改善した。
【寒冷+圧迫vs寒冷なし】
 • Labaの報告では足関節捻挫後に標準的なリハビリテーション治療に寒冷と圧迫を加えた群と加えない群を比較したところ、両群で浮腫、疼痛、退院時期で同様の結果であった。
 • Sloanの報告でも足関節捻挫後に寒冷と圧迫を加えた群と治療しない群の比較では疼痛の軽減、浮腫、ROMで同様の結果であった。
 • Edwardsの報告でも手術後に持続的な寒冷と圧迫を加えた群と治療しない群の比較では疼痛とROMの改善において同様の結果であった。
【寒冷+圧迫vs寒冷】
 • ACL再建術後に寒冷と圧迫を加えた群が寒冷のみより、筋の浮腫の軽減、鎮痛薬の服用において有意に改善がみられた。
【寒冷+圧迫vs圧迫】
 • Wilkersonの報告では足関節捻挫後に寒冷と圧迫を加えた群と圧迫のみの群の比較では、活動が制限された期間は有意な差がなかった。
 • 同様の比較をACL再建術後に行った3つの報告では機能、疼痛、浮腫において有意な差は無かった。
 • Dervinの報告でもACL再建術後の比較では、疼痛、浮腫、鎮痛薬の服用において有意な差は無かった。
 • Iveyの報告ではTKA術後のモルヒネの注射の量に違いは無かった。
 • Scarcellaの報告でもTKA術後のROMと歩行の自立までの期間に有意な違いは無かった。
 • Barber’sとOhkoshi らの2つの報告のみ寒冷と圧迫を加えた方が圧迫のみより有意に改善があったとなっているが、共に研究の質は低い。

【急性軟部組織損傷への寒冷療法の適応 まとめ】
• 寒冷>温熱、交代浴
• 寒冷=寒冷+低周波
• 寒冷>寒冷なし(痛みと荷重量のみ)
• 寒冷(持続法)>寒冷(間歇法)
• 寒冷+圧迫=寒冷なし
• 寒冷+圧迫>寒冷
• 寒冷+圧迫=圧迫

総括すると以下のようになる。
「寒冷は痛みを軽減する作用はあるが圧迫よりも全体的な効果(機能、疼痛、浮腫)は低い」


足関節捻挫の治療におけるRICEの根拠

What Is the Evidence for Rest, Ice, Compression, and Elevation Therapy in the Treatment of Ankle Sprains in Adults?
Michel P.J. van den Bekerom, et al, Journal of Athletic Training 47(4):435–443, 2012

【安静】
 • Greenらの報告ではRICEのみよりRICEに足関節の前後方向マニピュレーションを加えた方がすべての測定項目に著しい改善が見られた。1回目と3回目の治療直後の歩行速度が有意に増加した。
 • Karlssonらの報告では早期の機能的治療を行った方が通常の治療より、罹患期間が短く、早くスポーツ活動に復帰できた。
 • Eisenhartらの報告では通常のRICE処置に加えオステオパシーマニピュレーションを行った方が1週後のフォローアップでROMに有意な改善が見られた。
 • Bleakleyらの報告では標準的な介入より運動療法を行った方が下肢の機能評価において1週目、2週目で有意に改善した。また活動レベルが、一日の歩行時間という指標にて有意に高かった。
【寒冷】
 • Sloanらの報告では寒冷アンクレット(靴下)+45°挙上、ダミーアンクレット、寒冷、挙上、圧迫の5群の比較を行った。結果は疼痛、浮腫、ROM、荷重能力に有意な差はなかった。
 • Labaらの報告では寒冷と寒冷なし群の比較では疼痛、浮腫、足関節機能に有意な違いはなかった。
 • Coteらの報告では寒冷と温熱の比較では寒冷の方が浮腫が少なかった。
 • Hocuttらの報告では寒冷と温熱の比較では寒冷の方が疼痛の軽減、以前の活動への復帰日数で有意に改善が見られた。
【圧迫】
 • Airaksinenらの報告では弾性包帯に間歇性空圧機を併用した方が弾性包帯のみより有意に浮腫、ROM、疼痛、足関節機能に改善が見られた。
【挙上】
 • 該当する論文無し

【足関節捻挫の治療におけるRICEの根拠 まとめ】
急性足関節捻挫に対しては
• 早期の運動(運動療法やマニピュレーション)が有効
• 寒冷は有効かどうか不明
• 圧迫は有効
• 挙上はデータなし


最後に、これが一番知りたかった情報である。

寒冷療法は活動への復帰を早くするか?

Does Cryotherapy Hasten Return to Participation? A Systematic Review
Tricia J. Hubbard, et al, Journal of Athletic Training 39(1):88–94, 2004

Hocuttらの報告
• 対象:ファンクショナルグレード3と4の足関節捻挫
• 治療内容:
  • グループ1:36時間以内にクライオセラピー(21名)
  • グループ2:36時間以降にクライオセラピー(9名)
  • グループ3:少なくとも3日以内に温熱療法(7名)
• 復帰の判断基準:5段階ファンクショナルグレードの1になれば復帰とする
• 結果:36時間以内に始めたクライオセラピーが温熱療法より有効
• PEDro Scale: 2/10
• 研究の問題点:何も介入していない対照群がない。グループ間の人数の偏り。

Basurらの報告
• 対象:足関節捻挫(グレードの報告なし)
• 治療内容:
  • グループ1:48時間のクライオセラピーとその後の弾性包帯(30名)
  • グループ2:弾性包帯のみ(30名)
• 復帰の判断基準:患者の復職日の報告
• 結果:クライオセラピー群が有意に改善
• PEDro Scale: 3/10
• 研究の問題点:捻挫の程度が不明。復帰の判断基準に客観的な機能が無い。

Wilkerson and Horn-Kingeryの報告
• 対象:グレード2の内反捻挫
• 治療内容:
  • グループ1:弾性包帯とエアーストラップブレース(12名)
  • グループ2:U字型液体充填装具(室温)とエアーストラップブレース(12名)
  • グループ3:U字型液体充填装具(冷却)とエアーストラップブレース(10名)
• 復帰の判断基準:100ポイントの機能グレードで90ポイント以上を正常とする
• 結果:3群間で有意差なし
• PEDro Scale: 3/10
• 研究の問題点:何名かの途中経過でのポイントが入手できていない

Laba and Roestenburgの報告
• 対象:ファンクショナルグレード3か4の足関節内反捻挫
• 治療内容:
  • グループ1:20分間のアイスパック(14名)
  • グループ2:治療なし(16名)
• 両群とも超音波と基本的運動療法を受けた
• 復帰の判断基準:5段階ファンクショナルグレードの1になれば復帰とする
• 結果:グループ間で有意差なし
• PEDro Scale: 4/10
• 研究の問題点:特に記載なし

【寒冷療法は活動への復帰を早くするか? まとめ】
• PEDro Scaleおよび研究の問題点の解説から総合的に判断すると寒冷が足関節内反捻挫の回復を早くするとは言えない


RICE処置は本当に有効か? 3論文のまとめ(総括)
• 安静よりも早期の運動が有効
• 寒冷の効果はどちらとも言えないが、悪化はさせない
  • 効果はあっても圧迫より劣り、圧迫に併用しても+αの効果はない
• 圧迫は有効
• 挙上の効果は不明

 足関節の捻挫後、歩行や走行時に痛みを感じるのは炎症に伴う痛覚過敏が原因だと推測される。なぜなら歩行という運動は損傷組織である前距腓靭帯等にストレスにならないからである。過度の内反が加わらない限り靭帯による痛みは生じないはずである。そこでこの痛覚過敏だけを抑制すれば、通常の歩行や走行が可能になると考えられる。
 実際のアプローチは関節運動を制限しないようテーピング等で圧迫刺激を加え、痛みのない範囲で運動するのが論文から導き出された答えである。

RICE処置はこれからCM(Compression & Movement)処置に変わっていくと考えられます。

 ただし捻挫の程度が強かったり痛覚過敏が大きく生じたりする場合にはギプス等で強固に固定しないと痛みの抑制は困難である。

 なお圧迫の作用は浮腫の軽減ではなく、機械刺激による疼痛抑制だと推測される。これは足関節内反捻挫の軽傷な場合や亜急性期には、マリガンコンセプトの外果後方誘導のテーピング一本で楽に歩けるようになる臨床経験からである。(以前、報告したように位置異常という病態は存在しないと考えている)
 やはり炎症の症状である浮腫は治癒過程に必要な反応であり、それを止めるのは回復を遅らせるだけだと考えている。


圧迫や寒冷の役割

 軟部組織が損傷した場合、通常は自然治癒が起きます。ただしその過程が遅くなる場合がある。その一番の要因が安静・固定である。組織レベルで考えると軟部組織の循環や代謝が低下し治癒過程が遅延する。身体機能では当然、廃用性の筋力低下や可動域制限が生じ、軟部組織が治癒した段階でもその回復が不十分な場合がある。
 したがって回復を促すためには早期の運動が必要であるが、痛みがそれを阻害する。そこで圧迫や寒冷を使用することで疼痛を抑制し、早期から運動が可能となる。