現在の有痛性疾患に対する運動療法の問題点

 膝や腰の有痛性疾患の機能障害を客観的に評価すると痛み以外に筋力低下や可動域制限が存在する。また最近ではモーターコントロール(運動制御)の異常も筋電図学的に証明されてきた。すると多くの結論が「筋力低下、可動域制限、モーターコントロールの異常が痛みを引き起こした」となっている。 しかし筋力低下や可動域制限が痛みの原因であるという研究結果はほとんど存在しない。逆に痛みが筋力低下や可動域制限を引き起こすというデータはたくさん存在する。明らかに原因と結果を取り違えている。

 有痛性疾患に対する運動療法の有効性は確かに証明されている。その中心は筋力増強運動やストレッチである。ではその有効性がどの程度か2つの論文を紹介する。

変形性膝・股関節症に対する 運動療法の効果
The Effectiveness of Exercise Therapy in Patients with Osteoarthritis of the Hip or Knee; A Randomized Clinical Trial
 Van Baar, et al: J Rheumatol, 1998;25:2432-9

201名の変形性膝・股関節症に対するRCT
・ コントロール群:総合医による患者教育と必要に応じて投薬
・ 運動療法群:上記+プロトコールに従ったPTによる個別の運動療法

【運動療法の内容】
・ 筋力トレーニング、ストレッチ、協調性練習、起居移動動作練習を個人の機能に応じて実施
・ 週に1~3回を12週間
【結果の評価】
・ ここ1週間のVAS(0~100㎜)
・ NSAIDの使用量
・ 観察したDisability(運動課題の時間計測;歩行、着座、寝転ぶ、と監視レベル、硬直レベルの5項目をスコア化し0~1.00に換算)

確かに改善はみられているが、この程度で本当に患者さんは満足するのだろうか。それ以上に長期経過が問題であった。

 

変形性膝・股関節症に対する運動療法の持続効果
Effectiveness of exercise in patients with osteoarthritis of hip or knee: nine months’ follow up
 Van Baar, et al: Ann Rheum Dis 2001;60:1123–1130

前報告の12週間の治療後、24週と36週でのフォローアップ

このように治療終了と共に痛みやDisabilityは元に戻って、NSAIDsの使用量は増えていったのだった。結局、運動という機械的刺激で一時的な疼痛抑制が起こり、筋力や歩行能力が改善したと解釈すべきではないだろうか。

「まとめ」
・ 痛みが原因で筋力低下、可動域制限やモーターコントロールの異常が結果である。
・ 筋力低下、可動域制限やモーターコントロールの異常に対して運動療法を行っても、痛みに対する効果は少なく、持続効果はない。
・ 痛みの原因として多い筋スパズムの治療を行えば筋力低下、可動域制限やモーターコントロールの異常も改善する。

 現在まで、筋力低下や関節可動域制限が変形性膝関節症や腰痛症の痛みを引き起こしたという因果関係を証明した報告はない。

(痛みと治療の論考集リンク)               
 「変形・アライメント異常と痛みの関係」         
             「筋トレはなぜ痛みを軽減するのか?」          
「低負荷の腱板トレーニングが必須であるという錯覚」   
「腰痛患者にスタビライゼーションが必須であるという錯覚」
 「関節不安定性は腰痛の原因か?」            
「腰痛のサブグループ化は有効か?」