オステオパシーと頭蓋仙骨療法の効果

 オステオパシーの効果が本当に検証されたものかpub medで調べてみた。RCTをキーワードに入れると6つしか引っかかってこない。幸いなことにその中に3つのシステマティックレビュ-があったので、その内容を紹介する。

2つは慢性腰痛に対するオステオパシーの効果である。まず1つめ。
Osteopathic manipulative treatment for low back pain: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.
John C Licciardone et al: BMC Musculoskeletal Disorders 2005, 6:43

 対象は腰痛症全般である。オステオパシー徒手療法(OMT)と他の治療との比較をしたRCTを抽出してメタアナリシス(複数の論文データを統合して有効性を判定する手法)を行っている。結果はOMTが運動療法やプラセボ治療より著しく腰痛を軽減するとなっている。ところがeffect sizeを表した図を見ると分かるのであるが、治療してない群との比較をした論文が2つ、症例数が極端に少ない論文が1つ含まれている。これらのデータも含めた結果では信頼性は低い。


慢性腰痛、2つめ。
Osteopathic intervention in chronic non-specific low back pain: a systematic review.
Paul J Orrock et al: BMC Musculoskeletal Disorders 2013, 14:129

 1つ目と同じジャーナルであるが、違いは対象をnon-specific(非特異的)な腰痛に限定したこと、アプローチを徒手療法に限定せず患者教育等も含めて本来オステオパシーが行っている臨床に即した介入を選んだこと、そして論文の選択基準をSystematic Re-view Guidelines of the Cochrane Back Review Groupに基づいて厳密に行われたことである。一つ目のレビュー論文の不足部分を補った論文になっている。

 腰痛に対して一般的なオステオパシーではどんなアプローチを行っているのか?
 オーストラリアのデータでは軟部組織テクニック78%、ストレイン・カウンターストレイン65%、マッスルエナジー58%、スラスト55%、エクササイズのアドバイス42%です。
 イギリスのデータでは軟部組織テクニック78%、ストレイン・カウンターストレイン73%、スラスト38%、教育36%である。
 このような点から脊柱の徒手療法、つまりスラストだけを治療に選んだRCTでは不十分だと言っている。(カイロプラクティスと同じになってしまうから)

 さてこの厳密な条件でRCTの論文を集めてみると該当したのは2つだけであった。Licciardone, 2003の結果では治療なし群より有効であるが、シャム治療(疑似治療)群と同等の効果であった。
Chown et al., 2008の結果では理学療法士の徒手療法やグループエクササイズと同等の効果であった。
残念ながら結論として、慢性腰痛に関しては他の治療法に比べて優位な効果はなかった。

 


 次に頭蓋仙骨療法のレビューである。
Therapeutic Effects of Cranial Osteopathic Manipulative Medicine: A Systematic Review
Anne Jäkel, et al: JAOA , Vol 111, No 12, 685-693, 2011

 アメリカ・オステオパシー協会の出版する雑誌なので一番有効性を訴えたいところなのであるが、内容は残念なものである。RCTの基準に合ったのは8論文でその内4つは健常者の自律神経機能の変化であった。それ以外の分を紹介する。


 緊張性頭痛に対する頭蓋仙骨療法ではシャム治療より有効となっているが、10分間の治療直後の結果だけなので長期的な効果はわからない。

 小児の疝痛(下腹の差し込む痛み)に対して週1回、30分を4週間治療した結果は、24時間の間に泣く回数が減ったという効果?と睡眠時間が増えたという効果であった。

 成人の近視と遠視に対する5分間1回の治療では瞳孔のサイズに効果があった。しかし、なぜか視力の改善効果とはなっていない。

 そしてやっとまともな研究である。脳性まひ治療群71名、対照群71名の比較である。最初の10週間に平均21分の治療を3回、その後6か月以内に3回の治療を実施し、対照群は治療なしである(治療待機という形のようである)。結果、痛みは有意差なし。QOLの指標でCHQとSF-36では10週目では少し有効だったが、6ヶ月目では有意差なし。睡眠時間も10週目では有効だったが、6ヶ月目では有意差なし。一番重要なGross Motor FunctionとしてGMFM-66の結果はやはり有意差なしであった。

 奇跡的な効果をうたわれる頭蓋仙骨療法であるが、検証結果は残念なものとなっている。結果以上に多くの研究プロトコール自体が残念なものである。