それぞれの定義の確認と、どちらを治療対象にすべきか考察した。
Travell & Simons(1983)による定義
筋スパズムの定義
Spasm: Increased tension with or without shortening of a muscle due to
non-voluntary motor nerve activity. Spasm cannot be stopped by voluntary
relaxation.
「不随意な運動神経の活動による筋緊張の亢進で、短縮を伴う場合と伴わない場合がある。スパズムは随意的なリラクゼーションでは止めることはできない。」
トリガーポイントの定義
Trigger Point: A focus of hyperirritability in a tissue that, when compressed,
is locally tender and, if sufficiently hypersensitive, gives rise to referred
pain and tenderness, and sometimes to referred autonomic phenomena and
distortion of proprioception.
「組織における過敏点で、圧迫を加えるとその局所の圧痛があり、十分に過敏な場合には圧痛と関連痛が生じる。また時々、自律神経症状や固有感覚の歪みを引き起こす。」
トリガーポイントの確認に必要な関連痛の出現は、かなり強く圧迫を加えないと生じないことが多く、患者さんに不要な苦痛を与えることになる。そして圧痛のみで関連痛が出てこないこともよくある。また関連痛と普段訴えている症状が一致しても、そのトリガーポイントの治療で症状が取れないことも意外と多い。
森本ら(2006)の著書を見てもトリガーポイントを治療対象として、その確認には関連痛を必要としているが、Travell & Simonsの定義を確認すると「十分に過敏な場合には」関連痛が生じると記載してあり、必ずあるわけではない。
したがって苦労してトリガーポイントを探すより、今ある症状に関係している筋スパズムをすべて取りきる方が、苦痛なく短時間で症状の改善につながると考えている。よって僕はは治療対象をトリガーポイントではなく筋スパズムとしている。
臨床での筋スパズムの確認は筋緊張の亢進と圧痛である。筋スパズムはモーターユニットごとで生じるので一つの筋でもいくつかの筋スパズムが生じていることもある。例えば下腿三頭筋では大まかにみると起始部、中央部、遠位部と3か所の治療が必要なことがある(筋に対する治療の場合)。圧痛点はいくつかあり、全てを消すと筋スパズムは無くなる。その圧痛点の中にトリガーポイントも含まれているかもしれない。繰り返して説明すると、筋スパズムの中に圧痛点があり、圧痛点の一部がトリガーポイントと判断されることがある、ということである。
【文献】
Travell & Simons: Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point
Manual, Williams & Wilkins, 1983
森本昌宏 編:トリガーポイント―その基礎と臨床応用,真興交易,2006