治療錯覚


「関節モビライゼーションをして症状が改善すれば原因が関節にあった。」
「筋膜リリースをして症状が改善すれば原因が筋膜にあった。」
「神経モビライゼーションをして症状が改善すれば原因が神経にあった。」

 我々はつい物事を単純化、簡略化して理解しようとしてしまう。その方が分かりやすいし、伝えやすいから。しかし人体の構造と機能はそんな単純化はできないのではないだろうか。

 関節モビライゼーションをする時も実際には周囲の皮膚や筋膜に刺激が加わっている。筋膜や神経にしても単一組織のみに刺激を加えることはほとんど不可能ではないだろうか。

 また関節に加わった刺激で力学的変化、生理的変化が起こる。関節の刺激で筋緊張も変化するし、自律神経系、脳機能も反応する。それに伴い内臓機能(呼吸循環器系、消化器系など)や感情も変化する。もっと細かくみるとホルモン分泌、免疫系や代謝の変化もあるだろう。生体は相互に関連し合っていることは医療の専門家ならみんな知っていることである。

 でも関節モビライゼーションをすると関節のみが変化したと思い込んでしまう。この単純化、簡略化する思考の錯覚があると、本当の問題点を見逃してしまう危険性がある。