大腿四頭筋の筋力低下は膝OAの原因か?

 膝OAに筋力増強運動は効果があるとの報告はたくさんある。システマティックレビューやガイドラインでも強く推奨されている。
 OARSI(Osteo Arthritis Research Society International)は、国際的な変形性関節症に関する学会で、そこの最新のレビューを紹介する。

OARSIが推奨する変形性股・膝関節症のマネージメント
OARSI recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis: part III: Changes in evidence following systematic cumulative update of research published through January 2009.
Zhang W, Nuki G, Moskowitz RW, et al. Osteoarthritis Cartilage 18: 476-99, 2010

 特に効果の高い治療はeffect sizeの大きい順に、寒冷療法、有酸素運動、スパ・サウナ、鍼、筋力増強運動となっている。ちなみに徒手療法の効果はRCTの研究デザインが不十分で、評価できるレベルにないとのことである。

 

ただ膝OAと筋力増強運動の関係に素朴な疑問がある。
• 大腿四頭筋の筋力低下は膝OAの原因か?
• 筋力増強運動は膝OAの発症や進行を予防できるのか?
• 膝OAでは関節に過剰なストレスがかかっているのか?
• 筋力増強運動はなぜ膝OAの症状を軽減するのか?



異常アライメントと不安定膝関節での大腿四頭筋の筋力とOAの進行
Quadriceps Strength and Osteoarthritis Progression in Malaligned and Lax Knees
Leena Sharma, et al, Ann Intern Med. 2003;138:613-619.

【対象】Kellgren Lawrence Grade2以上、WOMACで2項目以上陽性の230名
【測定】筋力(Cybex)、下肢アライメント(X-p)、内外反動揺(専用の機器)、脛骨大腿関節と膝蓋大腿関節の狭小化(X-p)
• ベースラインと18か月後の比較
• 研究デザイン:前方視的、縦断コーホート研究
【結果】
• 四頭筋の筋力の平均値を調べ、それより強いか弱いかで2群に分けて比較
• ニュートラルアライメントではOA進行に筋力による差はないが、5°以上の異常アライメントでは筋力の強い方がOA進行膝が多かった
• 関節の動揺性が小さい群(5.75°未満)では筋力が強い方がOA進行膝が多い傾向
• 関節の動揺性が大きい群(5.75°以上)では筋力が強い方が明らかにOA進行膝が多い

OA進行の予測確率(ベースラインでのアライメントによる違い)
• ニュートラルアライメント(5°未満)では筋力の違いによる予測確率に有意差無し
• 異常アライメント(5°以上)では筋力が強いほど予測確率は高い

OA進行の予測確率(ベースラインでの関節動揺性による違い)
• 関節の動揺性が小さい群(5.75°未満)では筋力の違いによる予測確率に有意差無し
• 関節の動揺性が大きい群(5.75°以上)では筋力が強いほど予測確率は高い
• 動揺性が大きいほど、筋力が強い場合のOA進行の予測確率は高くなる

 

変形性膝関節症における大腿四頭筋筋力と軟骨消失および症状進行のリスク
Quadriceps Strength and the Risk of Cartilage Loss and Symptom Progression in Knee Osteoarthritis
Shreyasee Amin, et al, ARTHRITIS & RHEUMATISM 60:189-198, 2009

【対象】265名の変形性膝関節症患者
【方法】
• 大腿四頭筋の筋力測定(Cybex, 60°/secをベースラインで測定)
• MRI撮影を0、15、30か月に実施(scale of 0–6)
• 痛み(VAS)と身体機能(WOMAC)を0、30か月に実施
【結果】
• 軟骨消失のリスクはPF関節の外側のみ筋力が弱いと高くなる(FT関節では関係なかった)
• 軟骨消失のリスクは内反の程度(アライメント異常)と関係なかった
• 痛みと身体機能は筋力が強い方が良いが、30ヶ月後の変化(悪化度)に違いはなかった

 

X線写真上および症候上の変形性膝関節症の要因における大腿四頭筋の影響;縦断コーホート研究
Effect of Thigh Strength on Incident Radiographic and Symptomatic Knee Osteoarthritis in a Longitudinal Cohort
Neil A Segal, et al, Arthritis & Rheumatism 61:1210-1217, 2009


【対象】健常者1617名、2519膝(Kellgren/Lawrence grade≧2の変形が無い)と健常者2078名、3392膝(過去30日間に膝の痛みやこわばりが無く、かつ変形がない)
【方法】筋力測定(Cybex 60°/sec)し、30カ月後にX線写真と膝の症状の問診を行った
• X線写真の判定はKellgren/Lawrence grade
• 膝の症状の判定は問診(痛み、うづき、こわばり)
【結果】
• 筋力が弱くても変形の発生率は増えない
• 筋力が弱いと膝の症状は出現しやすい

この結果から大きな疑問が生じる。
膝の症状は変形に関係なく出現している⇒この症状は変形性膝関節症によるものと言っていいのか?

 

MOSTコーホートにおける女性の大腿四頭筋の弱化は、膝関節裂隙の狭小化のリスクを予測する
Quadriceps weakness predicts risk for knee joint space narrowing in women in the MOST cohort
Neil A Segal, et al, Osteoarthritis Cartilage. 2010 18: 769–775

【対象】OARSI 関節裂隙狭小化スコア<3の変形性膝関節3856膝(男性1602、女性2254)
【方法】ベースラインでの荷重位でのX線写真と膝の等速性筋力測定を行った。悪化の判定は30カ月後に関節裂隙狭小化スコアの増加かTKAの実施とした。
【結果】女性のみ筋力が弱い方が関節裂隙狭小化のリスクが高い

 

大腿四頭筋の筋力低下はOAの原因か? 総括

• 健常者では筋力が弱い方が膝の症状が出現しやすいが、変形の出現率は変わらない
⇒元々筋力が弱いのはなぜ?(素因や病態があると考えるべきではないのか)
• 変形性膝関節症患者では女性のみ筋力が弱い方が変形は進行しやすいとの報告があるが、筋力と変形は関係しない報告、逆に筋力が強い方が進行しやすいとの報告もある