民間療法

 約20年前、日本の徒手療法のメジャーとなっていたのはAKA(AKA博田法)とマイオセラピー(その当時は痛いマッサージで筋筋膜摩擦伸張法と呼ばれていました)であった。PTになって7年目頃で、そのどちらもある程度使えるようになったけれど、それでも良くならない患者さんがいる。何かいい方法はないかとたどり着いたのが民間療法であった。

 田舎の少し大きい本屋でも一般向け医療関係の本は棚2列分もあり、その1/3は民間療法であった。ちょっとでも役に立ちそうなら片っ端から買い集めていった。そして臨床の場でこっそり使って、効果を検証してみた。その中でも効果があると思えたのがオステオパシー、操体法、キネシオテープ、スパイラルテープであった。

 ただ特殊な機械を使う治療法は試すことができない。そんな中に強く興味を引かれたのが波動医学(現在はエネルギー医学と呼ばれている)であった。
「病気の原因を探していくと臓器の異常→組織の異常→細胞の異常→遺伝子の異常と西洋医学では解明してきている。ここから更に原因を探ると分子の異常→原子の異常→素粒子の異常となる。素粒子まで小さくなると粒子の性質と波の性質の両方をもっている。この波(波動)の異常が病気の根本原因である。だからこの波動を測定し、それを打ち消す波を作って身体に加えると病気は治る。機器で直接波動を加えることや、その波動を水に転写して、その水を飲むことでも治療できる。物理学の最先端の量子力学に基づき、この治療ができる機器がアメリカで作られ、ドイツでは広く普及している。」

 その当時は末期ガンやALSの患者さんも担当していて、自分の無力さと共に、どうしてこんな病気が起きるのかずっと疑問に思っていたのが、答えに巡り合ったと思った瞬間であった。この機器があれば慢性痛どころかあらゆる病気が治せる! しかし一番安い機器が400万円であった。その当時の収入では買えない金額であった。


 別の方法を追い求めていくと宗教の奇跡的な効果や、超能力も信じ込んでしまう。「溺れる者は藁をもすがる」ということわざがあるが、追い込まれると真っ当な判断ができなくなる。(誰かが僕を追い込んでいたわけではなく、自分が勝手に追い込まれているような精神状態だっただけであるが)
 民間療法の世界は玉石混合である。全てがもっともらしく書いてあり、中途半端な知識では簡単に騙されてしまう。本を書いている本人も騙すつもりはなく、ただ信じ込んでいるだけの方が多いが。

 超能力を習う方法はないかなあと本気で思いながら、未知の世界の量子力学を勉強し始めた。民間療法の世界では超常現象は量子力学で説明がつくと書いてあったので。そして量子力学がだんだん解ってくるころに波動の機械の廉価版ができたとの情報が手に入った。16万円!買える! でもすでにそんな機械が偽物だということが分かった頃であった。

 波動医学の理論の説明でよく使われる量子力学も、部分を抜き出して都合のいいように解釈してあり、本来の意味とは違ったとらえ方になっていた。最初読んだとき納得した内容も、ちゃんとした知識を持って読み返すと突っ込みどころ満載のトンデモ本であった。(「と学会」が編集した「トンデモ本の世界」という本が何冊もでています。一度読んでみてください。初期のころの方が面白いです。)

 2年程そんな回り道をしてまた西洋医学の世界に戻ってきた。使える民間療法を身につけて。
超能力は身に付かなかったが、スプーンを曲げられても拘縮した膝を曲げられない超能力では価値はないだろう。