拘縮と癒着

 拘縮が痛いという錯覚

 拘縮のある関節(筋や関節包)を伸ばすと痛いと一般的には思われている。でも本当だろうか。

 以前に「痛みを伴う治療の是非」で書いたように僕は拘縮と痛みは別だと考えている。拘縮の本体はコラーゲン線維の分子間架橋の形成である。そこには痛みを引き起こす組織的な変化は生じていない。もちろん正常可動域まで戻そうと過剰な伸張力を加えると正常な組織と同様に痛みは起きる。

 ただ近年、不動による痛覚過敏とアロディニアが基礎研究で確認されている。一次求心性神経の活動増加および広作動域ニューロンの割合増加である。これが拘縮に伴う痛みの原因だと考えられる。拘縮組織の変化ではなく、神経系の変化である。

 ただしギプス固定という条件下で、生体は情報収集のために閾値を下げて感度を良くしたという正常な適応反応とも捉えられる。おそらくギプスを外せば徐々に閾値は上がり、元の感度に戻ると予測される。それでも残存する痛みは筋スパズムだと僕は考えている。

 経験上、ギプス固定後の関節可動域制限は自動運動のみで日に日に改善していく。そして有痛性の制限が少し残り、それは筋スパズムの治療のみで改善する。ただまれにギプス固定中に著しい腫脹と疼痛を伴ったCRPSと考えられる状態の時と、骨折時の転移が大きい(軟部組織損傷が大きい)場合は、固定除去後の治療に難渋する。

 まとめであるが拘縮組織は痛くないが、CRPSを伴った場合は痛い。

【参考文献】沖田実 編:関節可動域制限 第2版,三輪書店,2013

徒手的な癒着剥離ができるという錯覚

 筋膜リリースでよく使われる言葉に「癒着を剥離する」というのがある。これに対し素朴な疑問がある。

・ 筋膜間の癒着剥離が必要なのか?
・ 筋膜間の癒着が評価でき、さらに徒手的に剥離できるのか?

筋膜間の癒着剥離が必要なのか?

 例えば半腱様筋と半膜様筋の間の癒着を考えてみる。2つの筋は並行して走り、機能もほぼ同じである。よって2つの筋の間に滑走が生じることはないだろう。そうすると癒着があっても筋活動においては何ら支障がない。
 では大腿直筋と中間広筋の間ではどうだろうか。膝関節単独の運動では機能は同じであるが、股関節の運動時は大腿直筋のみが活動し中間広筋は働かない。この股関節運動時に2つの筋の間に滑走が生じる。ここに癒着があれば股関節の運動は制限されるだろう。
 人体解剖をするとよくわかるのであるが、滑走の生じる筋間はお互いが硬い滑らかな組織に覆われて滑りやすくなっている。よって滑走の生じる(機能的に異なる)筋間の癒着は剥離する必要があると考えられる。

 

筋膜間の癒着が評価でき、さらに徒手的に剥離できるのか?

 人体解剖の手順としてまず皮膚を切開し、次に皮下脂肪を取り除く。この皮下脂肪が部位によるが、だいたい1㎝以上あり、それをしっかり結合している筋上膜から取り除くのは非常に時間のかかる作業である。そしてやっと筋膜間に分け入ることができる。例えば大腿筋膜の外側部は大腿二頭筋との間に境目があり、手のひらをメスのように挿入すると容易にその隙間に手が入り込んでいく。そして巻巣のようにカーブして4~5㎝で大腿骨に行き着く。
 さてこのプロセスが体表面から可能なのだろうか?せいぜい筋膜間を探し当て、そこを押しつぶす(外側広筋と大腿二頭筋を同時に押さえる)だけだろう。すなわち評価も治療も不可能ということである。