オステオパシー総論

 統合医療の第一人者といえばアリゾナ州立大学教授のアンドルー・ワイル博士が最も有名である。「癒す心、治る力」(角川書店)「人はなぜ治るのか」(日本教文社)などの著書を読んだ人も多いのではないだろうか。そのワイル博士が師と仰ぐ医師がフルフォード博士でオステオパシードクターである。

 セラピストならオステオパシーという名前を聞いたことはあるだろうが、それを詳しく勉強した人は少ないと思う。アメリカでは実は医師(医学)に3種類あり、MD:メディカルドクター(西洋医学の医師)、DC:カイロプラクティックドクター、DO:オステオパシードクターとなっている。もちろん大半はMDで次に多いのがDC、そして少数のDOである。現在アメリカにDOの養成大学は29校、イギリスに10校、オーストラリアとカナダに数校ある。日本には資格制度も大学もないが、専門学校がおそらく4校ある。日本人でDOを取得した人は少なく、知っている範囲では森田博也先生お一人である。


 日本語に翻訳された書籍で一番総括的なのが以下である。この本を元にオステオパシーの概要を説明する。自分なりの解釈も入っている。(僕の知識は本のみで、オステオパシーのセミナーは受けたことはない。ただいくつかの手技は理学療法士の行うセミナーで習ったことはある。)

  アメリカ オステオパシー協会編:オステオパシー総覧(上・下),エンタプライズ,1998


基本哲学は以下の4点である。
・ 身体は一つの単位である。一人の人間とは、身体、心およびスピリッツの単位である。
・ 身体は自己調節、自己治癒、健康維持能力をもつ。
・ 構造と機能は相互に関与し合っている。
・ 合理的な治療は身体の調和、自己調節、および構造と機能の相互関係の基礎的原理に基づいている。

 ほぼ納得できる内容である。特に注目すべきは「相互関係」という言葉かと思う。
 この哲学に病気という言葉が出てこないが、全ての病気は単なる結果に過ぎないという観点で身体、心、スピリッツを捉えようとしている。

ではこの相互関係で捉える、全身のつながりには以下のようなものがある。
・ 内臓体性反射、体性内臓反射
・ 筋膜
・ 頭蓋仙骨リズム
・ 自律神経、内分泌、免疫系
・ 精神神経免疫

頭蓋仙骨リズム以外は西洋医学でも理解されているつながりである。

ではこのつながりを元にDOはどのように診断を行うか、例を挙げて説明する。
・ 内科的診断+全体の診断
・ 局所の病理的変化と全体の変化


[肺炎の場合]
 ・ 局所:肺の炎症
 ・ 全体:
  ・ 内臓体性反射で呼吸筋スパズム、胸郭制限(椎間、肋椎、胸肋)
  ・ 筋膜連鎖で頸部、腰部の運動制限、気管の緊張
  ・ 頭蓋仙骨リズムの異常
  ・ 交感神経の興奮、免疫機能の賦活
  ・ 心理的不安

 まさに徒手療法を使いこなせる内科のドクターが診断すればこうなるのか、という印象である。非常に表面的な項目だけを挙げているが、局所の肺炎を見つけるために血液のCRP上昇や体温上昇といった全身的な変化も当然捉えた上での局所の診断であろう。

そしてどんな治療を行うのか。
・ 西洋医学の治療法
 ・ 投薬、注射、手術
・ 徒手療法
 ・ 直接法:スラスト(HVLA)、関節療法(LVHA)
 ・ 間接法:マッスルエナジー、ストレイン・カウンターストレイン
 ・ 筋膜リリース:直接法、間接法、統合
 ・ その他:リンパ系、内臓系マニピュレーション
 ・ 頭蓋仙骨療法

 徒手療法の手技の名前はいくつか見たことがある人も多いと思う。実際理学療法士の書いた書籍やセミナーでもこれらの手技を紹介されていることもある。
 アメリカでParisの徒手療法セミナーを受講した時に、向こうのPTに聞いたところ、アメリカではPTとカイロプラクターとオステオパスはお互いにいいとこ取りをしているそうである。同じような手技を名前を変えただけとか、カイロプラクターの手技がよりソフトになってきたとか。



 オステオパシーに関するセミナーの宣伝ではやたらと奇跡的な効果をアピールしていることが多い。現代医学では治らなかった病気が治ったとか、、、。時には理学療法士が理学療法をやめてオステオパシーを始めたとか、、、。