痛みを伴う治療の是非

 約30年前の臨床実習では治療時に痛みを伴うことは当たり前のように行われていた。特にストレッチでは患者さんに我慢してもらって、セラピストが力づくで関節を曲げることが普通であった。その実習が終わる間際に新しく出た宇都宮初夫先生の論文にAKAを用いれば無痛下でストレッチが行えると記載されていたので、「本当にこんなことが可能なのか」と疑問に思ったぐらいであった。
 関節可動域制限の原因に痛みが最も多く、その痛みの原因は仙腸関節や脊柱の関節機能障害で、その機能障害を治すためにAKAを行う。またストレッチ時に関節包内運動を考慮して正しいストレッチを行えば無痛下での伸張が可能という内容であった。その当時の知識では関節可動域制限=拘縮で、拘縮は伸ばすと痛いものというレベルでした。関節可動域制限の制限因子を判別するという思考自体がなかった時代であった。
 今では痛みの原因まで評価し、適応があれば治療を行い、拘縮が原因の場合のみストレッチを行うのが普通になってきているように思う。以前は痛みに対してストレッチを行っていたわけであるから、完全に適応の間違いであった。

 この15年ぐらいの間に慢性疼痛に関する研究が進んできた。特に2001年からの「痛みの10年」宣言もあり、基礎・臨床の両面から様々な取り組みが行われてきた。慢性疼痛の発生機序として持続する疼痛や、反復して加わる疼痛がその原因の一つと言われている。その刺激が神経回路の可塑的変化を引き起こし、痛みを慢性化するそうである。

 今にして思えば僕たちが過去に行った治療で慢性疼痛を作り上げていた可能性がある。今の知識で過去の行いを責めることはできないが、反省はすべきである。そして未だに痛みを伴う治療を行っている人はそのリスクを十分に考えてほしい。そしてリスク以上のメリットがある場合のみ、その治療を行ってもいいのだと判断してほしい。

【文献】
宇都宮初夫:拘縮・疼痛と関節運動学的アプローチ,理学療法 3:247-255,1986
熊澤孝朗 編:痛みのケア,照林社,2006