サブグループ化に関する研究では最も論文数が多いと思われるマッケンジー法から検証していきたいと思う。マッケンジー法自体が腰痛をサブグループ化する評価・治療体系である。
まず腰痛症全体に対するマッケンジー法の有効性の研究である。
脊柱の痛みに対するマッケンジー法の効果のシステマティックレビュー
A systematic review of efficacy of McKenzie therapy for spinal pain
Helen A Clare, et al
Australian Journal of Physiotherapy 50: 209–216, 2004
【結果】
• 短期の痛みではマッケンジー法がブックレット、筋力増強、脊柱モビライゼーションより有効
• 短期のdisabilityではマッケンジー法はNSAIDs、ブックレット、マッサージ、脊柱モビライゼーションより有効とは言えないが、筋力増強よりは有効
• 中期的なdisabilityではマッケンジー法はブックレット、マッサージ、筋力増強より有効とは言えない
• 中期的な欠勤期間ではマッケンジー法がブックレットや筋力増強より有効とは言えない
腰痛へのマッケンジー法の効果
The McKenzie Method for Low Back Pain
A Systematic Review of the Literature With a Meta-Analysis Approach
Luciana Andrade Carneiro Machado, et al
SPINE, 2006; 31: E254–E262
マッケンジー法は腰痛に対する分類に基づく治療法であり、単なる伸展運動ではない。
この本来のマッケンジー法の急性または慢性腰痛に対する効果を検証した。
【まとめ1】(研究が均質で統合できたもの)
• マッケンジー法と受動的治療(教育パンフレット、安静、アイスパック、マッサージ)の比較は1週の時点ではマッケンジー法が痛みや活動制限を有意に改善するが、4週の時点で受動的治療との有意差が無くなってくる。
• マッケンジー法と活動的に過ごすようにアドバイスを受けた群の比較では、12週の時点ではアドバイス群の方が痛みや活動制限が有意に改善した。
【まとめ2】 (研究が不均質で統合できないもの)
• マッケンジー法と屈曲運動の比較では慢性腰痛に対しては2週の時点で同等の効果。急性腰痛に対しては8週の時点で屈曲運動の方が効果があった。しかしDelittoらの報告では急性腰痛に対して5日後ではマッケンジー法が有意に活動制限を改善した。
• マッケンジー法と脊柱マニピュレーションの比較では、Schenk らの報告では3回目の来院時にはマッケンジー法が有意に痛みが軽減したが、 Erhardらの報告では5日後と4週後でマニピュレーションの方が活動制限を有意に改善した。
• マッケンジー法と筋力増強運動の比較では、亜急性と慢性腰痛症に対して、痛みと活動制限において8週、10週、32週とも有意な違いはなかった。
2006年以降、マッケンジー法に関するシステマティックレビューが行われていないので、近年のRCTを紹介する。
急性腰痛に対して第一選択のケアにマッケンジー法を併用した効果
The effectiveness of the McKenzie method in addition to first-line care
for acute low back pain: a randomized controlled trial
Luciana AC Machado, et al
BMC Medicine 2010, 8:10
【方法】
第一選択のケア:
• 活動的にすごし、安静臥床を避ける
• 急性腰痛の良好な予後の説明で安心させる
• アセトアミノフェンの服用
第一選択のケアvs第一選択のケア+マッケンジー法(3週間、最大6回のセッション)の比較
• 第一アウトカム:1週目と3週目の痛み(NRS)、 Global perceived effect (全体的自覚効果)
• 第二アウトカム:1週目と3週目のDisability(RDQ)、1週目と3週目の機能( Patient Specific Functional
Scale; 0-10 )、3か月後の腰痛の持続
【結果】
• 痛みの軽減に関してマッケンジー法は統計的有意に効果があったが、臨床的に意味のある差ではなかった(痛みは0-10の11段階で1週目0.4、 3週目で0.7の差)
• Global perceived effect (全体的自覚効果)、 Disability(RDQ)、機能( Patient Specific
Functional Scale)に有意差はなかった
• 更なるヘルスケアが受けたいという希望者がマッケンジー法の方が有意に少なかった(マッケンジー法7%、第一選択ケア26%)
非特異的腰痛患者に対する腰痛教室とマッケンジー法の効果の比較
Effectiveness of Back School Versus McKenzie Exercises in Patients With
Chronic Nonspecific Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial
Alessandra Narciso Garcia, et al
Phys Ther. 2013, Jun;93(6):729-47
【対象】148名の慢性非特異的腰痛患者
【介入】週1回、4週間の腰痛教室かマッケンジー法(共にホームエクササイズを含む)
【測定】1,3,6ヶ月に実施
痛みの強度(NRS)、RMDQ、QOL、体幹屈曲角度
【結果】
• マッケンジー法が1ヶ月後のRMDQを有意に改善した(平均2.37/24点)が、痛みに有意差はなかった(平均0.66/10点)。
• QOL、体幹屈曲角度も有意差はなかった。
• 3か月、6か月では全て有意差はなかった。
以上のように最新の論文でも短期的にはややマッケンジー法の有効性が見られる場合もあるが、総じて他の治療法以上の効果は出せていないようである。
そこで、どのような腰痛患者にマッケンジー法の適応があるのかを調べた研究がでてきた。
急性腰痛患者に対してマッケンジー法の適応が予測できるのか?
Can we predict response to the McKenzie method in patients with acute low
back pain? A secondary analysis of a randomized controlled trial
Charles Sheets, et al
Eur Spine J (2012) 21:1250–1256
【方法】
• 第一選択のケアvs第一選択のケア+マッケンジー法を3週間実施した後の痛みの強さを比較
• マッケンジー法が最も効果的な特性を、6つの予測項目ついて、線形回帰モデルを用いて影響度を検証した
• ①ベースラインの疼痛、②姿勢か運動で疼痛が変化、③下肢痛の存在、④持続疼痛、⑤屈曲で疼痛が増強、⑥マッケンジー法への期待
【結果】
• マッケンジー法が効果的な特性は見つからなかった
• 姿勢か運動で疼痛が変化する徴候は非効果的特性だった
力学的診断と治療に最も反応する慢性腰痛患者の識別
Identifying Patients With Chronic Low Back Pain Who Respond Best to Mechanical
Diagnosis and Therapy: Secondary Analysis of a Randomized Controlled Trial
Alessandra Narciso Garcia, et al
Phys Ther. 2016 May;96(5):623-30
力学的診断と治療(MDT)=マッケンジー法
【方法】
治療効果を修飾する因子を調査(腰痛患者のサブグループ化のため)
• 明確な中央化現象
• 膝より遠位にある痛み
• 痛みが強い(中央値で2分する)
• 54歳より若い(中央値で2分した年齢)
相互作用がNRSで1点、RMDQで3点以上を臨床的価値のある介入とした
【結果】
• 54歳より老いている方がMDTが有効
• その他の因子は関係なかった
マッケンジー法か脊柱マニピュレーションによる腰痛患者の臨床的に意味のある結果を予測する
Predicting a clinically important outcome in patients with low back pain
following McKenzie therapy or spinal manipulation: a stratified analysis
in a randomized controlled trial
Petersen T, et al.
BMC Musculoskeletal Disorders (2015) 16:74
【対象】痛みの中央化もしくは末梢化の生じる慢性腰痛患者350名
【方法】
• ランダムにマッケンジー法かマニピュレーションを実施。
• 効果修飾因子(予測因子)として年齢、下肢痛の重症度、痛みの分布(膝より遠位)、神経根症状、症状の期間、痛みの中央化を予め調査
• 効果判定はRMDQ23点中5点以上の軽減があった場合を成功とし、成功した比率が15%以上差があればグループ間に臨床的に意味のある違いがあったとした。
【結果】
• 全般的にマッケンジー法がマニピュレーションより有効
• どの予測因子も有意な治療修飾効果を持たなかった
• 神経根症状がある場合と、末梢化現象がある場合には、マッケンジー法の効果が高くなる傾向にあった
以上、3論文から明確なマッケンジー法の適応は予測できないことが分かった。唯一、神経根症状がある場合と、末梢化現象がある場合には、マッケンジー法の効果が高くなる傾向にあった点は重要かもしれない。
どの運動療法が重要か?
Does it Matter Which Exercise?
A Randomized Control Trial of Exercise for Low Back Pain
Audrey Long, et al
Spine 2004;29:2593–2602
【方法】
• directional preference(DP):方向優先性のみられた腰痛患者に対し、運動療法を①DP順方向、②DP逆方向、③方向のない運動療法の3群に分け比較
• 結果測定はVAS、痛みの部位、RMDQ、服薬量、回復の程度、抑うつ傾向、仕事の障害
【結果】DP順方向が全ての項目で有意に改善あり
当たり前の結果かもしれないが、症状の増悪する方向に運動を行うと回復が悪くなるということである。(これをマッケンジー法の有効性というのは無理があるが)
次に腰痛患者のサブグループ化を行いマッケンジー法の効果を検証した論文である。
中央化または末梢化が見られる腰痛患者に対し、情報とアドバイスに加えて行った、マッケンジー法とマニピュレーションの比較
The McKenzie Method Compared With Manipulation When Used Adjunctive to
Information and Advice in Low Back Pain Patients Presenting With Centralization
or Peripheralization
Tom Petersen, et al
Spine 2011 ; 36 : 1999 – 2010
【対象】痛みの中央化または末梢化が見られる腰痛患者(神経根症状がある者を含む)
【方法】
• 認定セラピストによるマッケンジー法とカイロプラクターによるマニピュレーションの効果を比較
• 12週間、最大15回の治療を実施
• 治療直後、2か月後、12か月後に再評価
• 結果測定:
• 治療の成功:RMDQが5点以上減少(23点中)
• RMDQ、腰下肢痛質問票(0~60点)、全般的自覚効果、QOL(SF-36)、活動が制限された日数、仕事への復帰期間、治療への満足度
【結果】
• 両群とも臨床的に意味のある改善が見られた
• 治療の成功患者比率(2か月後)は71% と 59%でマッケンジー法が有意に改善( P = 0.018)
• RMDQは2か月後で平均差1.5( P = 0.022)、12か月後で平均差1.5( P = 0.030)とマッケンジー法が有意に改善
• 全般的自覚効果は治療直後で48%と35%でマッケンジー法が有意に改善( P = 0.016)
• その他の項目は痛みを含め有意差なし
RMDQの平均差1.5は臨床的に意味がある差なのか疑問である(24点満点の1.5点である)。そして重要なのはこの研究の事後検定で中央化は治療効果の修飾要因ではなかったということである。
さらに記載はないが、末梢化は修飾因子ではないのかという点である。末梢化は神経根の圧迫所見の一つとして考えられる徴候で、本来はモビライゼーションの禁忌ではないのだろうか。この末梢化のみられる患者を除外すれば治療効果の差は減ると予測される。以前紹介した論文にあったように末梢化のある患者はマッケンジー法が有意に改善する傾向にあるからである。
【マッケンジー法の有効性 まとめ】
• 腰痛患者全般では他のアクティブな運動療法より有効とは言えないが、モビライゼーションよりはやや有効。
サブグループ化での有効性
• 中央化現象が見られる腰痛患者でも上記と同様。
• 末梢化現象が見られる腰痛患者ではマッケンジー法が有効な傾向にある。
Centralisation(中央化現象)はDerangement Syndrome(内障症候群)に見られる現象で、腰痛患者では最も多くみられる徴候と言われている。マッケンジー法の理論的根拠では、運動により突出した椎間板が整復されれば中央化が生じ、逆に突出が増強すれば末梢化が生じると言われていた。
椎間板の動態は論文により相反する結果がみられ、論争の的になっていたようである。それに決着をつけたと思われる論文を紹介する。
変性腰椎の椎間板の動的膨隆
Dynamic Bulging of Intervertebral Discs in the Degenerative Lumbar Spine
Jun Zou, et al
Spine, Vol 34, Num 23:2545–2550, 2009
【対象】腰痛患者513名
【方法】kMRIにて立位での中間位、前屈位、後屈位における椎間板の動態を計測
【結果】GradeⅠでは伸展時に椎間板は前方に膨隆するが、変性したGradeⅡ以上では予測できないので、伸展運動は勧められない
椎間板ヘルニアがある患者では基本はニュートラルということである。