治療手技について考察する時の僕の基本的スタンスは結果が第一で理論は二の次である。色々な手技があるが、全てそれなりの効果があるから存在すると思う。だからその手技自体を否定するつもりはない。ただ理論的に矛盾を含んでいる方法は病態仮説が間違っていると思う。その場合は痛み等の原因を治しているのではなく、症状自体を治している可能性が高いと考えている。それならば別の治療手技を用いても同様の結果が出せるのでは、、、?というスタンスである。
まず頭蓋仙骨療法 cranio-sacral therapyの概要をまとめてみた。(図参照)
ただこの治療法に関する資料をいくら読んでも解らないことがある。
・ 頭蓋仙骨リズムは治療により(自分自身の経験上、触診による評価では)変化するが、CSFの流れる量が変わったというデータは無い
・ 頭蓋仙骨リズムと生体の他の機能との関係は(疾病との関係も)何も証明されていない
現在の頭蓋仙骨療法の第一人者としてアプレジャーが有名かと思い、彼の書籍をがんばって読んでみた。
John E. Upledger: Craniosacral Therapy Ⅰ・Ⅱ, Eastland Pr, 1983, 1987
しかしこれに書かれている内容は解剖学的なつながりから機能的に関係しているだろうという予測のみで、それを証明した参考文献が一切ない。まさに物語のレベルである。
別の書籍からその物語のような説明を抜粋する。
CA. Speece, et al: 靭帯性関節ストレイン,エンタプライズ,2004 (p31より)
「頭蓋領域のオステオパシー」の中でハロルド・マグーンは、一つには中枢神経系の自動運動に由来する、脳脊髄液の循環と流体力学の作用について述べている。脳脊髄液は第3脳室底で産生され、神経系を通過して流れ出る。やがて静脈洞のパッキオーニ小体(クモ膜顆粒)を経由して、あるいは脳神経系や脊髄神経周囲のスペースを通って外部に流出したり、鬆が入った筋膜のコラーゲン線維を通り抜けた後、リンパ系に入って他の身体間質液と混ざりあう。つまり全身が“生命の息吹”とともに動いているのである。(引用終わり)
医学的な説明が成り立っているように見えるが間違っているところを指摘する。
・ 脳脊髄液は途中で流出しない(外傷がない限り)
・ 筋膜のコラーゲン線維を通り抜けたりしない
・ 血液、間質液、細胞液の間では液が移動するのではなく、そこに含まれる、イオン、ガス、ホルモンなどが移動する
・ 頭蓋仙骨リズムによる流体力学で移動するのではなく、血液による静水圧(濾過)と濃度高配による拡散、そしてATPを使った溶質ポンプ輸送によって移動する
きちんとした生理学の知識があればおかしいと思うはずであるが、浅い医学的知識を持っているレベルでは物語を事実だと思ってしまう。
以上、理論的な面からは頭蓋仙骨療法は受け入れられない。ただ理論が無くても実際に効果があるなら受け入れられる。。理学療法の手技でも結果が先で理論は後付ということはよくあることだから。