サブグループ化の検証

 今までまとめてきたマッケンジー法および臨床予測基準を含めて、腰痛のサブグループ化の効果を検証したシステマティックレビューである。

腰痛のサブグループ別徒手療法の効果
The effectiveness of sub-group specific manual therapy for low back pain : A systematic review
Sarah L. Slater, et al
Manual Therapy 17 (2012) 201-212

【まとめ】
• サブグループの基準はマッケンジーの中央化現象かFlynnの(マニピュレーション)臨床予測ルール
• ただし中央化現象を基準にした3論文中2論文は仙腸関節の疼痛誘発検査を併用
• 中央化現象がある場合は伸展運動が屈曲運動より有効そうだが、伸展運動が伸展マニピュレーションより有効とは言えない
• Flynnの臨床予測ルール陽性の場合はマニピュレーションを運動療法に追加して行なっても、運動療法単独より有効とは言えない


次に腰痛のサブグループ化の最新レビューである。

非特異的腰痛に対するセラピスト主体の介入でのRCTにおけるサブグループ化の質の評価
Evaluating the Quality of Subgroup Analyses in Randomized Controlled Trials of Therapist-Delivered Interventions for Nonspecific Low Back Pain
Dipesh Mistry, et al
Spine 2014; 39:618–629

【結論】
サブグループ化はまだ試験的な段階で、検証した研究も質が低い。

2014年の段階では腰痛のサブグループ化は有効とは言えないということである。



そして非常に興味深い研究である。

非特異的腰痛症に対して臨床家の治療法の選択は結果を良くするのか?
Does clinician treatment choice improve the outcomes of manual therapy for nonspecific low back pain?  A meta analysis.
Peter Kent, et al
J Manipulative Physio Ther. 2005;28(5):312-22.

【短期の痛みの変化】
治療法の選択なしでは徒手療法が有効であったが、選択をすると徒手療法は他の治療法より有効ではなかった。
【長期の痛みの変化】
治療法を選択しても、しなくても徒手療法は他の治療法より有効ではなかった。
【短期の活動制限の変化】
治療法の選択なしでは徒手療法が有効であったが、選択をすると徒手療法は他の治療法より有効ではなかった。
【長期の活動制限の変化】
治療法を選択しても、しなくても徒手療法は他の治療法より有効ではなかった。

【結論】
治療法を選択しても、しなくても徒手療法は他の治療法より有効ではなかった。

驚くべきことに短期の変化では、臨床家が治療法を選択した方が効果は下がるという結果が出ていたのである。



そして、これは衝撃的な研究であった。

腰痛治療におけるセラピスト選択vs無作為化選択でのモビライゼーションの効果
Efficacy of “therapist-selected” versus “randomly selected” mobilisation techniques for the treatment of low back pain
Chiradejnant A, et al
Australian Journal of Physiotherapy 49: 233–241, 2003

【方法】
• 140名の非特異的腰痛患者
• 初期評価で適切なモビライゼーションのグレードと脊椎レベルを判定
• 判定通りの治療群と無作為選択の治療群の直後効果を比較
• 効果判定指標
• 痛み(NRS)、ROM、全体的主観効果
• 全体的主観効果とは全体的な症状の変化で、最大の悪化を‐5、最大の改善を+5とする11段階評価
【結果】
評価通りの正しい治療もランダムに選んだ治療も、改善の程度に明らかな違いはなかった。


同様に治療部位選択の妥当性に関する研究である。

脊柱のマニピュレーションの指標として頸椎のendplay評価の効果
Efficacy of Cervical Endplay Assessment as an Indicator for Spinal Manipulation
Mitchell Haas, et al
Spine 2003;28:1091–1096

【対象と方法】
• 頚部痛を訴える患者104名
• 研究群はカイロプラクターがendplayの制限部位を評価し、同部位を治療する
• 対照群は無作為に選んだ部位を治療する
• 効果判定は治療直後と5時間後に痛み、こわばり、NDIを評価
【結果】
• 研究群も対照群も痛みとこわばりの改善が見られた。
• グループ間での有意差はなかった。


 どこかに治療分節を特定した方が効果は高いという論文は無いか再度探したところ、上記2つの紹介した論文も含んだレビュー論文を見つけた。


脊柱のモビライゼーションで分節を特定した場合としなかった場合の痛みや可動域の相対的有効性:
システマティックレビューとメタアナリシス
The relative effectiveness of segment specific level and non-specific level spinal joint mobilization on pain and range of motion: results of a systematic review and meta-analysis
Slaven EJ, et al
Journal of Manual and Manipulative Therapy, VOL. 21, NO. 1, 2013

• 該当論文は8つ(詳細を読むと実質6つが該当)
• 4論文が効果判定にNRSを使用⇒メタアナリシス(グラフ参照)
• 頸椎では分節を特定した方が効果はある傾向だが、統計学的に有意差なし
• 腰椎では分節を特定しない方が効果はある傾向だが、統計学的に有意差なし

• 2論文が効果判定にVAS
• 頸椎への片側PAモビライゼーションでは分節の特定は関係なかった
• 頸椎への中央PAモビライゼーションでは分節を特定した方が効果は高かった(唯一の有効性論文)


 この論文の結論はメタアナリシスの「傾向」だけが採用されているという欠陥がある。
 僕には客観的にどう読み込んでも頸椎でも腰椎でもjoint playの制限を指標として治療部位を選ぶことは疑わしいという結論である。(joint playの制限は痛みの原因と関係ないということである。)
 仮にこの論文のように傾向を結論にすると、腰椎は分節を評価して治療すると適当にモビライゼーションをするより効果が落ちるということを受け入れなくてはならない。